大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和63年(オ)895号 判決

大津市梅林一丁目一五番三〇号

上告人

株式会社 明拓

右代表者代表取締役

松井弘一

同所同番号

上告人

明拓アルコン株式会社

右代表者代表取締役

松井弘一

大津市中央二丁目二番三五号

上告人

松井弘一

右三名訴訟代理人弁護士

田倉整

松浦由行

右輔佐人弁理士

田村公總

大阪市北区神山町一番三号 新扇町ビル内

被上告人

神鋼アルフレツシユ株式会社

右代表者代表取締役

細井勇

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

村上和史

森島徹

豊島秀郎

辻川正人

東風龍明

右輔佐人弁理士

安田敏雄

中野收二

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六〇年(ネ)第一二〇六号特許権に基づく差止等請求事件について、同裁判所が昭和六三年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人田倉整、同松浦由行、上告輔佐人田村公總の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(昭和六三年(オ)第八九五号 上告人 株式会社明拓 外二名)

上告代理人田倉整、同松浦由行、上告輔佐人田村公總の上告理由

一、矛盾する二つの取付方式を認定する理由齟齬乃至理由不備について。

(一) 取付方式についての争点

本件特許発明は旧窓枠に新窓枠を取付けて窓枠を改装するに当って、取付金具を用いる技術に関し、物としての発明について特許されたものである。その物の発明は、特許請求の範囲において「装置」として特定され、この「装置」は旧窓枠(既存の建物の窓枠である)、新窓枠および取付金具の三者から成っている。

金具工法による窓枠改装を行う業者は現在に至るも被告会社一社であるが(原告は、溶接工法による窓枠改装を行っており、本件特許発明はもとより、およそ金具を用いた工法は一切実施していない。原告から本件の実施権を得ている各社でも金具工法を実施していない。)本件のイ号物件も一応この三者を備えた「装置」である。

本訴における争点とされたのは、本件特許発明に用いる取付金具が「引張り方式」というべき技術を前提としているのに対して、イ号物件が「挟み込み方式」(吊り下げ方式)を用いる構造になっていることによって、その取付け方法(手順)、装置を異にする(この点は権利者も認め、判決も認めている。)にも拘らず、結局、原判決が侵害成立の理由としたところは、被告は、挟み込み方式(吊下げ方式)を用いず、工事方法として引張り方式を行っているというにある。

イ号物件の取付金具はそれ自体を見れば、引張り方式が不可能ではないような構造になっていることがその根拠のようであり、一方、挟み込み方式は「作業として煩雑」であるとして排斥されているが、原判決の認定は明らかに誤りである。

この点は、次の事実を指摘するだけで明らかである。即ち、本件において、イ号物件は何種類もあるように見えるが(別紙(四)一覧表)その理由は、改装の対象とされた既存の建物の旧窓枠の前後幅(「見込み寸法」といわれる)が一種類ではなく、何種類かあるからである。

しかし、イ号物件においては、この旧窓枠の見込み寸法の如何に拘らず、改装業者として取り揃えるべき、新窓枠と取付金具については夫々同一の単に一種類のもののみを用いており、これによって生じる旧窓枠との寸法差は、新窓枠に別途取付けられる室内側カバー(本件特許発明とは無関係である)の種類により吸収するものとしている。

右の新窓枠の見込み寸法、断面形状が同一であること、取付金具が形状、構造はもとより寸法をも同一とした一種類のものを共通に用いている点については、争いのない事実とされているところである。

(二) 原判決の認定

〈1〉 この取付金具を用いたイ号物件について、原判決は、「引張り方式」によっているとの事実を認定しているが、一方、旧窓枠の寸法種類のうち、一つの寸法(八八m/m)のものについては「引張り方式」を用いておらず、「挟み込み方式」を用いていることを事実上認めており、このことによって、同一新窓枠、同一取付金具を用いたものにつき、争点である双方の方式を同時に認定するという矛盾を来しているということを指摘しておく必要がある。しかも、「挟み込み方式」を認めたこととなる寸法は、イ号物件の各種寸法の中の中間に位置しており、量的に最も多い標準的寸法と僅かに二m/mの差があるに止まるものである。

旧窓枠の見込み寸法(別紙(四)の図中lとして示される)は、具体的には、八六m/m(標準のものとされる)、八八m/m、九〇m/m…のものがある(別紙(四)一覧表)。

このうち、挟み込み方式とされたのは、八八m/mのものであり、その前後二m/m違いの八六m/m、九〇m/mは引張り方式と認定されているのである。

〈2〉 しかし、イ号物件における取付金具を用いて引張り方式を行えば、旧窓枠に対して新窓枠が充分に固定されず、取付金具がガタガタになり、いずれ新窓枠が外れるに至るという危険な欠陥工事をしているというに等しいという問題点がある。いわば、イ号物件の取付金具は各部品がすぐにバラバラになってしまうような構造で、このうち、室外側に位置する菊花型の菊ナットといわれるものと、室内側のナットにより、旧上枠、又は旧竪枠に取付け固定されたピース金具という箱状の金具を前記二つのナットによって両側から強く挟み込むことによって初めてしっかりと組合わされたものとなる構造となっている。

即ち、ピース金具には、単に菊ナットとナットの前後移動を案内する連結金具を横(上枠の場合)又は上(竪枠の場合)から入れる受入溝を設けてあるに止まり、本件特許発明の如くにボルトを直接にねじ込むことができる雌ネジが切られている訳ではない。このため、菊ナットとナットにより強くピース金具を挟み込んでおかないと、連結金具がピース金具に固定されないことになるからである。

従って、菊ナット、ナットのいずれかがピース金具から離れていたりすれば、それ自体にガタツキを招く。新窓枠には、重量のある硝子戸が入れられるのを例とするから、それ自体充分な固定が必要であるし、この硝子戸の開閉衝撃、建物(旧窓枠)の、例えば車輛通過時等の振動、更に、本件特許明細書にも記載された強風時の風圧等様々な外力にも晒されるから、この点からも充分な固定をなすべきは必要不可欠である。

原判決は、この菊ナットを見せ掛けのものとして、これがピース金具から離れていてもよいとした上、被告の上記「固定されない、欠陥工事」になる旨の主張を排斥する.

そして原判決は、菊ナットがピース金具から離れていても、新窓枠にガタツキを生じない理由として、イ、室外側において、新窓枠に取付けられたガスケットが旧窓枠に接していること、ロ、室内側において、ナットがピース金具に締付けられていること、の二つによって室内外方向から新窓枠は抑えつけられている旨判示して、引張り方式の認定の問題点が解消されたものと判示している。

(三) 矛盾する認定

ところが、原判決は、一方で、上記旧窓枠中の見込み寸法八八m/mのものについて四ケ所において言及し、この八八m/mのものについては、「ガスケット材が旧窓枠に接しないものである」旨判示している事実がある。

してみれば、この八八m/mのものに対しては、上記ガスケットが接していることにより取付け固定がなされているとの判示理由を適用する余地のあり得ないことが明白である。

取付方式が争点とされてい乍ら、侵害成立とした八六m/m、九〇m/mの中間にあって僅か二m/mの寸法差、それも、特許請求の範囲に「旧窓枠」とするだけでそれ以外に何らの特定もない、そして、単に改装される対象であるに止まる旧窓枠の僅かな寸法差により、一方に適用され、一方に適用され得ない取付固定方法(引張り方式)を認定しているのは、それ自体矛盾するものといえる。

ところで、ガスケットが接触したものは引張り方式によるとするが、このガスケットの接触しないとする八八m/mのものは、一体どのように取付け固定されるとするのであろうか。

この点、本件では、本来の挟み込み方式のほか原判決は引張り方式によっているとの無理な認定をしているので、その他の方式は構造上考えられないことが明らかであり、従って、上記八八m/mについては、ガスケットの接触による取付けがなされない以上、本来の挟み込み方式、即ち、菊ナットとナットによりピース金具を挟んで取付けられている被告主張の挟み込み方式によってなされていることにならざるを得ない。

前記のとおり、原判決は、挟み込み方式を排斥した理由として、「作業として煩雑」であることを根拠とする(その余の理由は、原告が工具持参の上、室内側カバーを立会人もなく外して内部を撮影したそれ自体信憑性のない検甲第一~第一〇号の写真、原告会社社員の証言、同代表者本人の当事者尋問の結果のみである)。

してみれば、原判決は、八八m/mの旧窓枠に対しては、挟み込み方式は手順どおりに行うが、これと僅か二m/m異なる標準的寸法(八六m/m)のもの、九〇m/mのもの等々については、同一新窓枠、同一取付金具を用いることから、挟み込み方式も可能であることを認めた上、これらについては「作業として煩雑である」という主観的理由により、これを行い難いものとしていることになる。むしろ、同一窓枠、同一取付金具を用いる以上、作業を標準化してその効率の向上を図るのが常識であり、二m/m違いのものに殊更に異なる手段、取付方法を設定し、これを作業者に強いることの方が煩雑であり、これらは全て同一方式によって取付けが行われているとするのが客観的で自然である。

なお、上記挟み込み方式が煩雑である理由として、原判決は、ガスケット材を圧縮し続けることが余計な力を必要とすること、菊ナットを指操作することが煩雑であることを具体的に挙げるが、ガスケットは空気が両端から逃げる薄肉中空で、軟質ゴム製のものであるから何ら特別の力を要しない(この点は後述する)し、菊ナットの操作が可能なことは、原判決自体、ナットの締付け後にこれを操作してピース金具に当接させることができるとしているのであるから、これらを「煩雑」と言っても単なる僅かな程度の問題を指しているにすぎないのである。

してみれば、挟み込み方式の「煩雑」の根拠はそれ自体が薄弱であるが、前記のとおり、逆にこれを引張り方式によるとするときは取付け固定上欠陥工事になる。多数の改装工事を今日まで担当してきた被告が欠陥工事の結果その補修責任負うことになれば企業としては死活問題である。また、営繕専門官のいる官公庁受注も多い中で、挟み込み方式の提出改装工事図面(乙第一号~第三号や甲第八号~第一三号)と異なる引張り方式を行ったのでは、いつ突然に行われるか分らない工事途中での検査(必ず行われる)に照らして発見されないことはあり得ない。このとき引張り方式を行ったことが判れば(専門家が菊ナットの状況を見れば一見して挟み込みがなされていないことが判る)、次回以降の入札は不可能である。原判決も不可能とはしない程度の煩雑さが仮にあったとしてみても、企業の存亡に関わる補修責任の危険や将来の受注機会を失う危険を負担することは経済常識に照らしてもあり得ない。まして、特許権侵害を逃れるためこのような危険を負担するよりは、業界各社のように有償で特許権を導入する方がどれ程安いか分らない(溶接工法を含めて権利者は業界各社に同一条件で実施権を許諾しており、これは、原判決の損害額の認定からもうかがわれるところである)。

してみれば、原判決は、かかる経済常識の主張にも顧慮することなく、イ号物件の取付方法を認定した結果、引張り方式に生じる問題点を解消する理由において、旧窓枠の見込み寸法中、これらの中間に位置する八八m/mのものについてのみ挟み込み方式によるとし、その前後僅か二m/m違いの八六m/m、九〇m/mを含めたイ号物件全体については、「煩雑」を理由に引張り方式によるものと認定し、その結果、同一新窓枠、同一取付金具、取付け対象に止まる旧窓枠の三者のうち、特許請求の範囲にも特定されない旧窓枠の見込み寸法僅差により、判決に直接影響する争点とされた双方の異なる取付方式を夫々認定するという矛盾を来している。

なお、この八八m/mのものは、検乙第五号、乙第三号証が提出された後、原告がこれを本件の対象から除く旨表明したが、原審がこれらを取調べ、且つ、その結果、ガスケットが接触していないことを認定し、これを四ケ所に亘って言及しているくらいであるから、この八八m/mのものも審理の対象とされており、従って、この間に整合性ある理由が当然に示されなければならない。

以上のとおり、原判決は、相対立する争点につき矛盾した認定を行っているから、この点理由齟齬の違法があり、また、これらの間に整合性ある理由が示されていない点において審理不尽による理由不備の違法がある。

二、イ号物件について「非侵害の場合」についても侵害だとする判決

原判決は差止請求について、その対象となる実施行為の内容が論理的に解明されないまま行われ、控訴審もこれを是認しているが、理論的な検討をするだけで筋の通らない違法な判決といわなければならない。

〈1〉 イ号物件は、既に述べたように、旧窓枠と、改装業者が揃える新窓枠及び取付金具とを備えたものである。

してみれば、イ号物件は、既存の建物に既に取付いている改装の対象である旧窓枠を三つの部材中に含んでいる。

このイ号物件の製造販売を禁止するというのが原判決が是認した差止請求の内容であるが、そもそも、既存のものである「旧窓枠」については、これを製造しうべくもなく、販売しうべくもない。

この点、原判決は、それ自体不可能な内容を強いる違法な判決である。

〈2〉 一方、イ号物件は、この旧窓枠、新窓枠、取付金具とを備えた「装置」である。にも拘らず、原判決は、取付金具の扱い方、手順に関する、いわば、「工事方法」としての取付方式を主体として審理し判断している(これは、イ号物件説明書中に取付方法、手順に亘る記載がなされたことによるようである)。

その結果、「新窓枠を引張って固定する方法」の引張り方式を認定しているが、上記のように八八m/mのものについては、この引張る方法に依らない挟み込み方式を認定している。

とはいえ、これらは全く同一の新窓枠(但し、本件特許発明とは係わらない室内側カバーの寸法は僅かに異る)と同一構造、形状、寸法の取付金具を用いているから、原判決は、この新窓枠、取付金具について、挟み込み方式が可能であることを認めていることになる。

この原判快の認定によれぼ、イ号物件の装置について、侵害の場合と非侵害の場合とがあるということになる。

即ち、イ号物件は「装置」であるにも拘らず、その「装置」の工事方法のうち、指定された方法(引張り方式)に用いられる限り侵害の問題が生じるが、指定された以外の方法(挟み込み方式)に用いる場合には侵害にならないということになる。

本件のイ号物件は必然的にこの指定の手段方法しか取り得ないというものではないのであるから、その方法如何によっては「非侵害の場合」が当然にあるということになるのは理論的な検討を少しく加えてみれば容易に判明するところである。

このように非侵害の場合を含むことになるイ号物件の「装置」について差止廃棄命令を求めるのは、無理難題というものである。本訴請求のうち、この差止廃棄の命令を求める部分は、その主張自体によって既に理由のないことが明らかである。

本件訴訟においては、イ号物件が挟み込み方式をとることが可能であること、この場合には本件特許権を侵害しないものであることを、結局、権利者及び原審裁判所が確認しているところである。ということは、権利者の主張及び原審裁判所の判断が主文第一、二項の差止廃棄命令に直結しているとすれば、本件判決は、非侵害方式をとる仕事を排除する効果をもつことを認めることになり、裁判所のなすべき限界を超えた違法な判決である。

のみならず、損害賠償請求についても、挟み込み方式が可能であるから、工事の一つ一つについてその方式を確認する作業をした上でなければ、損害賠償の基礎とすることはできない筈である。この点においても原判決は違法な判断を示している。

三、ガスケットによる取付の認定における矛盾又は経験則違反及びイ号物件と異るガスケット

(一)ガスケットによる取付の認定における矛盾

新窓枠の取付け固定がガスケットによりなされているという上記原判決の認定については、更に、原判決が一方において、このガスケットが、イ、弾性を有していること、ロ、旧窓枠への接触状態でなお圧縮される余裕を残していることを認定した点において矛盾を来している。

このガスケットは、原判決別紙(一)第五図中に一二四として示されるとおり、〈省略〉の形状断面をもつ中空薄肉ゴム製のものであり、新上枠、左右竪枠の夫々にその長さに合わせて切断したものが用いられている。

つまり、両方の端部が切り放しの状態にあるから、中の空気はガスケットの圧縮に応じてその分逃げ、従って、薄肉ゴムのこのガスケットは極く軽い押し付けでその中空部分の全部が簡単に圧縮されるに至ることは極めて明白である(この点は原告も押圧力が比較的小であるとして認めており、また、検甲第一二号証の一、二の被告製品を取調べているから裁判所にも明らかである)。

従って、このガスケットは、例えば、ゴムマリやタイヤの如くに空気の逃げ場がないが故に、圧縮に大きな力を必要とするものとは基本的に異なる。

このガスケットについて、原判決は、「ガスケット部材の頭部分が四・五ミリメートルであるから二乃至二・五ミリメートル圧縮されることが予定されて」いること、「ガスケット材は弾性を有し圧縮しても復元力を有する」(ゴム製である以上素材として復元力を有することは当然である)こと、圧縮後も更に「一乃至一・五ミリメートルの(注、圧縮)余裕」を有していることを認定する。

弾性を有してなお圧縮余裕を残しているということは、ガスケットが夫々取付けられた新旧の上枠、竪枠間にその分の隙間を残しているのと同じであるから、余裕分だけ更に新上枠、新竪枠は動き得るということであり、前記風圧等の外力を受ければ、当然に押されて新上枠、新竪枠は室内側に移動することになる。

そして、前記のナットは、ピース金具に対して締められているとするが、このナットは、新上枠、新竪枠側に取付けた取付金具の一部をなしているから、当然に新上枠、新竪枠の移動とともに室内側に移動して、ピース金具から離れることになる。

挟み込み方式によれば、ピース金具をその両側から菊ナットとナットが挟んでいるから、新上枠、竪枠が風圧を受けても、この菊ナットが室内側に移動することを阻止して、このようなことは生じ得ない。しかし、原判決は、この菊ナットが当接しないことを前提とするから、移動を阻止する障害がないことに帰し、新上枠、竪枠の移動とともに取付金具から離れるに至る。

そうすると、ガスケットとナットで新窓枠が取付け固定されているとの上記認定は、外力が加わらないときには、新旧窓枠間にガスケットの圧縮余裕分の隙間がある状態とされ、一方、外力が加わり、これが更に圧縮されると、その分ナットがピース金具から離れた状態にあるものを指していることになるのであり、こうなるのは論理的に当然の帰結であリ、この状態を固定というには余りにも常識外である。

重量のある硝子戸を収容開閉する固定が充分になされるべき新窓枠で、このように常に隙間があり或いは離れている状態をもって、これを取付け固定されている、また、その結果、容易にガタツキを生じないものとは到底言い得ない。

してみれば、かかる状態を招来する、弾性があり圧縮余裕を残したガスケットを認定しておきながら、一方で、このガスケットにより新窓枠が取付け固定されていると認定することは、それ自体矛盾したものであり、理由齟齬の違法があり、或いは審理不尽による理由不備の違法がある。

(二)イ号物件誤認による違法

ところで、原判決がこの常識でも分る程度の相矛盾する認定をしていることについては、原判決が、イ号物件を取調べて確認しているにも拘らず、全く別異のガスケットを独自に想定してこれと取り違えた上、その取り違えた事実を看過して、イ号物件のものとは異なるものを判決の対象としたものと考えざるを得ない。

例えば、イ号物件のガスケットについて、これを仮にタイヤやゴムマリのように、内部に空気が密封充填され、空気の逃げ場のない構造のものが用いられていると誤解したとすれば、上記認定は一応それなりに辻褄が合う論理になるからである。

即ち、仮にこのガスケットの両端を閉塞密封した、丁度軟いストローの上下端をつぶして接着した如きものを想定し、これが新窓枠に取り付けられているものと原判決が考えたものとすれば、なる程、ナットと共に新窓枠を取付け固定するガスケットは、四・五m/m中二乃至二・五m/m圧縮された状態では、既に極めて強い反発力を生じており、丁度新旧窓枠間をスプリングで突張ったような状態となる。この場合、更にガスケットに圧縮余裕があるからといっても、風圧等々の外力により新窓枠が押されてこれが移動することは容易に考え難いからである。つまり、ガスケットの弾性と復元力を、そこに、密封された空気の圧縮内圧によるものと誤解した前提で見れば、原判決の判示はそれ自体、それなりには理解し得ることになる。

原判決には、このガスケットについて具体的に判示するところは全くない。しかし、例えば、挟み込み方式を排斥する理由として、前記のとおり、「ガスケット材を圧縮し続けること」が煩雑であるとしている(密封されているとすれば、確かに反発力が強く、大きな力を要するから、その作業は大変になる)点、また「ガスケット材が旧窓枠に圧着されている」としている点等の認定に照らせば、前記の点の誤解があったことは否定し難い。

イ号物件のガスケットは、前記のとおり、両端が切断され開放されたままであるから、これが密封されているという事実は全くない。いわば、軟いゴムで作ったストローの如きものが新窓枠に取り付けられているのと変らない。ガスケットは(同じ断面形状がどこまでも続く)押出成型品であり、専門業者が生産し、例えば一〇〇m位を芯に巻いて供給され、窓枠業者はこれを窓枠の長さに合わせて切って用いている。この段階で切口をふさぐような煩しい上、意味のないことは一切されない(およそ、窓枠やアルミサッシにおいて密封したものを用いることはない)し、現に原審が取調べた検甲第十二号証の一、二のガスケットも明白に切り放しのままである。

従って、イ号物件のガスケットは軟いゴム製のストローと同じように、僅かな力でも簡単に圧縮されてしまう。この場合空気の圧縮による内圧は全く存在しないから、ガスケットの弾性、復元力はいずれもガスケットが軟質薄肉のゴムであることによる素材の弾性、素材の復元力である。被告がこのガスケットについて一貫して主張したのは、イ号物件の実際のものに基づくこの弾性であり、圧縮余裕の存在である。

また、原告の主張もこの前提でなされていることは、それ自体明らかである。

してみれば、このガスケットについて、検甲第十二号証の一、二を取調べたにも拘らず、そして、当事者間にも争いがないにも拘らず、原判決はイ号物件のガスケットを審理することなく、全く別異のガスケットを独自に想定して、これにより審理判決を行ったことになる。いわば、イ号物件がいつの間にか別のものに置き換えられたことにもなる。

従って、この点、〈1〉イ号物件のガスケットと異なる独自のものを想定し、これと取り違えて判決がなされている点において、審理不尽による理由不備の違法があり、〈2〉被告の主張が、原判決の立場に照らして、余りに大きく相反する立場であることが審理の過程で明らかであったにも拘らず、これを看過するとともに、その主張の技術的意味の判断を誤った点において審理不尽による理由不備の点があり、〈3〉当事者間に押圧が簡単にできるというガスケットの性状について争いがないにも拘らず、これと異る認定を行った点において経験則違反の違法があり、〈4〉また、争いがないガスケットの常識的な技術的意味を看過し、これと異なる判断を誤って行った点について審理不尽による理由不備がある。

なお、原判決は、イ号物件につき、その挟み込み方式を排斥した理由、引張り方式を認定した理由中で、このガスケットを極めて重視し、これを大きな根拠としている。従って、このガスケットについての審理不尽による誤解は、直接に判決を左右する重要な前提条件であるといわなければならない。

(三)ナットの離れと、「ネジ締結する連結手段」

上記のとおり、ガスケットに圧縮余裕あることによって、外力によりナットがピース金具から離れるに至ることは、原判決が、一方でイ号物件につき、「ネジ締結する連結手段」で連結されているとして、これにより本件特許発明への構成要件該当性を認定している点とも矛盾する。

本件特許請求の範囲には、新旧上枠、竪枠間で夫々に取付けられる金具を「ネジ締結する連結手段」で連結するものとされている。何をもってこの連結手段とするかはここでは措くが、原判決は、イ号物件について、ナットを締め付けているから、ネジ締結されているものと認定する。

しかし、ナットは上記のとおり、風圧等の外力のない時にはピース金具に接していても、外力が加えられれば、このピース金具から離れてしまうことになる。そうすると、イ号物件につき、ナットの締付けでネジ締結されているとするのは、「外力が加わる間には解除されるネジ締結」という極めて非常識な概念を認めないと説明がつかない結果になる。

そして、原判決は、イ号物件について、ネジ締結された結果、双方の金具の協働でこれらが強度メンバーになるとの本件特許発明と共通の作用効果を認定するが、そもそもナットが離れたりついたりするのに、「ネジ締結」した二つの金具が強度上の機能をもつ強度メンバーになり得ることはなく、それ以前に、取付け固定それ自体がなし得ていない点が問題にならざるを得ないということになる。

従って、原判決が、上記圧縮余裕を残したガスケットとナットによる取付け固定を認定する一方、イ号物件がこのナットによってネジ締結されているものと認定しているのは、それ自体が矛盾する認定であり、この点においても理由齟齬の違法がある。

(四)ガスケットの圧縮余裕と欠陥性

また、ガスケットに圧縮余裕があり、その結果ナットがピース金具から離れることは、これによりナットの緩みが当然に促進されるから、この点で前記「容易に緩んでガタツキを生じるものとも思われない」とした認定とも矛盾する。

ナットが締付けられても、振動等により自然に緩んでくることはそれ自体が技術常識である(この点は権利者も認めているところであり、原判決のみこの見解に同調しない)。まして、日常的に硝子戸を開閉する新窓枠に与えられる開閉衝撃は、新竪枠やこれと枠組みされている新上枠に伝えられるとともに、直接取付金具にも至る。いわば、ナットは緩む原因となる外力を日常的に受けていることになる。

この緩み止めのために、イ号物件は、ナットの締付けに際し、スプリングワッシャーと板状のワッシャーを用いているが、原判決は、これらを、「イ号物件の特定として省略しても差しつかえのない程度のもの」であるとして、ワッシャーの緩み止め機能を認めない。

しかるに、上記のとおり、ガスケットとナットによる新窓枠の取付け固定を認定する結果、風圧等の外力を受けて、ナットはピース金具から離れることが避けられない。ピース金具には連結金具を横方向又は上下方向に緩やかに嵌める受入溝を設けてあるに止まり、本件特許発明のように、ボルトを直接にねじ込む雌ネジが切られたりしている訳ではないのに、菊ナットがピース金具から離れていてもよいとすれば、こうなることを避けることは不可能である。

仮に、各ワッシャーを用いたとしても、その締付けの対象であるピース金具からナットが離れることは、その締付け力が失われることになり、ワッシャーを用いた意味をなくし、また、元の位置に戻っても、一度でも締付がない状態になれば、離れる前とは異り、そのナットは既に緩んでしまっていることになる。これが繰り返されれば、早晩ナットは完全に緩み、結局ピース金具に対してナットは常に接触しない状態にならざるを得ず、新窓枠はこれによりガタツキを生じる。

まして、原判決は、ワッシャーを省略したイ号物件を認定しているから、これらが介在していないことを前提としている。

ワッシャーが入っていても、こうなるのは当然であるのに、これがないとすると、更に早くナットの緩みを生じる。そもそも開閉衝撃、建物振動等により緩む力を日常的に受けるナットが、ガスケットの圧縮余裕の存在によって、ピース金具から離れる以上、これを緩まないものとすることは常識的にみても到底言い得ないことになる。

そうすると、圧縮余裕あるガスケットとナットにより新窓枠が取付けられているとする認定と、その結果、新窓枠が緩んで容易にガタツキを生じないとする認定とはそれ自体が矛盾し、この点において理由齟齬の違法がある。

四、技術常識に反する認定とこれによる書証の排斥

(一)「気密材」と「液体」

〈1〉 本件特許発明では、新窓枠に「弾性気密材」が備えられ、これが旧窓枠に接した状態で新窓枠を引張ることを構成要件としている。

そして、本件の争点の一つとして、この「弾性気密材」の設置意義が論じられた。即ち、気密材が文字通り空気の流入を遮断するものである以上は、新窓枠の一部にこれが置かれたとしても空気の性質に照らして、その意味がなく、全体、即ち四枠の全てに設けられることによって初めて意味がある。この点について上告人は本訴において、窓枠の気密に関するJIS規格(乙第六一号~第六三号証)を提出した。

しかし、原判決は、この弾性気密材について、これが「液体」の流入を防止するためのものとし、JIS規格の意義内容の如何に拘らず…と乙号証を排斥する。気密材と「液体」とは係りがないから、この点原判決は一般的である技術常識をも無視する経験則に違反する認定を行っており、もってこの書証を排斥している。

即ち、原判決は「本件公報及び検甲第一一号証の一、二によれば、(注、新窓枠を構成する)上枠、下枠、竪枠の一部分にのみ弾性気密材を備えている場合であっても、その部分に関するかぎり、液体の流れを防止することができ…JIS規格における全体としての窓枠の気密材の意義内容如何にかかわら」ないと判示している。

JIS規格において、窓枠における気密性の意義を確認し、気密材が気密性、即ち空気の密封性に関するものであることを前提とし乍ら、これを排斥するに、気密材を「液体の流れを防止する」ものと認定している、いわば、突然に液体(雨水等を指すことになる)を持ち出して、この部分のみを「弾性水密材」に置き換えた論理である。

従って、この点において経験則に違反する違法があり、また、書証を排斥する上で合理的理由が示されないままであり、この点において理由不備の違法がある。

〈2〉 一方、仮にこれが、空気を含む「流体」の誤記であったとしてみても(原告が「流体」という用語を用いていた)、それ自体空気の密封性に関する気密材について、窓枠の一部でも、その部分に関するかぎり流れを防止するというのは、空気の性質に鑑みれば、何らの技術的意味をも持たないことは常識としても明らかである。

窓枠改装の技術に関する本件特許発明で、当初広い概念の「パッキング」とされていた記載が、「弾性気密材」と限定的に補正された審査経過の事実に照らしても、この気密材の意義内容は、技術的範囲の解釈上無視し得ないところである。

従って、仮に「流体」を「液体」と誤記したものとしても、原判決は、空気の性質を無視した経験則に違反する違法があり、これにより上記窓枠の気密性に関する書証を排斥するに合理的理由を示さない点において理由不備の違法がある。

(二)「雌ねじ」と「ナット」

本件特許発明は、その取付金具に「ネジ締結する連結手段を設け」るものとされ、この連結手段で新窓枠を引張るものとされている。

イ号物件は前記のように挟み込み方式として、ナットを用いる技術である。

本訴における争点の一つとしては、上記「ネジ締結する連結手段」という抽象的記載が明細書の全体から見て、この「ナツトを用いる技術」を本件特許発明から除外しているという被告の主張の当否にある。

しかし、原判決はこの被告の主張を排斥するについて、「雌ねじ」と「ナット」とを同一視することにより行う。

これは、本件明細書及び図面の実施例中に、ボルトをねじ込むための「雌ねじ」が補強金具に設けられていることを根拠とするようである。

即ち、原判決は、「本件発明は、ボルトの頭部の回転操作により補強金具等に形成された雌ねじ(ナット)と締結することを予定した」ものとし、ナットを括弧書きすることによって、これを雌ねじと同一であるとしている。

〈1〉 しかし、ナットは雌ねじを有するそれ自体独立単体の部品であり、それ故にこそ、原判決も、イ号物件についてこのナットを独立単体のものとして回転操作するものと認定し得ている筈である。これに対して、雌ねじはそれ自体単独では存在せず、必ず他の部品に付随して設けられる部品に加工したねじ穴であるに止まる。

単なる付随的なねじ穴であるものと、それ自体独立単体の部品であるナットとは、技術常識(これも一般常識であるが)上明確に区別されており、技術上からも、このナットをねじ穴(雌ねじ)と同一のものとすることは不可能である。

してみれば、これらを同一のものとした前提は、それ自体技術常識に反する経験則違反の違法がある。また、技術上別概念であっても、仮にこれらに置換可能性があるとするならば(そのような主張は原告にないし、本件においてそのような可能性もないが)、そのことを前提とする法理論を適用する理由が示されるべきであるが、そのような判示もなく、この点審理不尽による理由不備の違法がある。

〈2〉 また、本件特許発明では、一方の部材(鋼製補強金具)に切られた雌ねじとボルトの組み合わせでねじ締結するものとしているから、この場合、他方の部材(取付用金具)との三部材によって相互の固定が可能である。

しかし、イ号物件の取付金具の場合は、雌ねじを用いず、独立部品のナットを用いる技術であるから、これと連結金具(原判決はボルトと認定している)の組み合わせとなる。このときは、さらに両方の部材(鋼製摺動金具とピース金具)を必要とし、少くとも合計四部材が揃って始めて固定できることになる(イ号物件の取付金具は実際には六部材によって始めて取付け固定ができ、その一つが欠ければバラバラになってしまう)。

原判決は雌ねじをナットと同視する結果、最低四部材を必要とする固定の技術を結局三部材で固定できるとしていることになり、この間の辻褄が合わなくなる。

この点、ナットを用いる技術における固定について、その科学常識に反する、即ち経験則に反する違法な判断を行っていることが明らかである。

五、構成要件該当性についての理由不備

(一) 「ネジ締結する連結手段」

イ号物件の取付金具は締付け用のナットを備えこれを回転操作することを合む構造を有するものであるが、本訴においては、この構造が上記本件特許請求の範囲の「ネジ締結する連結手段」という抽象的記載に該当するか否かが、その技術的範囲の解釈をめぐって争点とされた(後述のように原判決はその根拠とした主張を主張として判断の対象として取り上げていない)。

この点、原判決は、上記のとおり、「本件発明はボルトの頭部の回転操作により…締結する」ものとして、回転操作の対象がボルトであると認定する(この限りで、被告の主張に添った見方であるが)。

ところが、イ号物件が上記「ネジ締結する連結手段」に該る理由において、「ナット一六二の回転により、ボルトを移動させ」るものと認定して(挟み込み方式によれば、ボルトが移動することはない)、その回転対象をナットと認定している。

しかし、回転操作の対象を本件特許発明ではボルト、イ号物件ではナットとして、その差異を明確に認定したことは、本来イ号物件の侵害成立が否定される根拠とされるべきであるにも拘らず、この差異について、何らの整合性ある理由が示されることなく、原判決は、イ号物件の構成要件該当性を認定している(この認定は被告が争った別紙一のイ号物件説明中の記載に根拠を置いている。)。

この点、仮に理由らしきものを敢えて捜せば、原判決が、「ボルト回転を予定している」とした後「そのねじ締結手段については前記特許請求の範囲にも限定はない」とした点が挙げられる。

しかし、本件発明が「予定している」と認定した技術(ボルトを回転させる技術)がある以上、その技術をもって特許請求の範囲の、それ自体抽象的な記載の意味内容とすべきが特許法第七〇条の規定である。そうでなければ、本件発明が予定すらしない未開示の技術(ナットを回転させる技術)を限定のない記載との理由によって包含し、とり込むことになり、特許制度の趣旨を逸脱することになるからである。

なお、原判決は、「ねじ締結手段」というが、特許請求の範囲には「ネジ締結する連結手段」とされており、単なる「締結手段」が問題とされているわけではなく、この点に照らせば、右回転対象の差異については何らの判示もないことが一層明らかである。

被告が書証の提出を含めて主張した点を原判決中に取り上げず、従って何らの判示もなく、一方回転対象の明確な差異を被告主張に添って認定し乍ら、同じく争われた(削除を求めた)別紙一におけるイ号物件説明中の記載をそのまま引用してその構成要件該当性を認定していることは、それ自体が矛盾する理由齟齬の違法を含むものであり、また、その理由が示されない点で審理不尽による理由不備の違法がある。

(二) 「鋼製補強金具」

本件特許発明の取付金具は、新窓枠の背面に枠長手方向所定間隔に装置される「鋼製補強金具」という「補強」を行うべきものを用いるものとされている。

これに対して、イ号物件の取付金具は、この点「鋼製摺動金具」を用いるものとしている。この摺動金具は、新上枠等に取付けた状態で一m/m程度の余裕を残してこれらに嵌っているに止まり、それ故に、文字通り新上枠等に摺動自在とされているから、これが新上枠等を「補強」する余地はない。

争点とされたのは、本件特許発明の技術的範囲の解釈において、鋼製補強金具の「補強」が、明細書に作用効果として記載されている、「改装後」の新窓枠を補強する意味をもつものであるとの被告主張の当否についてである。

この点について、原判決は、補強の意味について、改装工事の際の「引張り時」に限ってアルミニウム製であるが故に脆弱な新窓枠を補強するものであると認定して被告主張を排斥するが、一方では、「改装後」の新窓枠が必要且つ充分な耐強性を有するとする本件特許明細書に記載の作用効果を同時に認定している。

また、イ号物件の摺動金具について、これが引張り方式によっているとの前提から、本件特許発明におけると同様に、「引張り時」に新上枠等を補強しているとし、併せて上記「改装後」の耐強性という作用効果を備えるものであると認定している。

しかし、本件特許発明では、新窓枠における「改装後」の耐強性が問題とされているのであるから、この新窓枠に取付けられる「鋼製補強金具」がこれに寄与しないことはあり得ず、その「補強」は「改装後」のものとすることが自然である。原判決が、これを全く認めることなく、「引張り時」の補強とした一方で、右「改装後」の作用効果を認定しているのは、矛盾した論理である。

即ち、本件特許発明の上記作用効果は、本件特許明細書によれば、イ、新窓枠の背面に鋼製補強金具を装着したこと、ロ、これと旧窓枠に添着の鋼製取付用金具をねじ締結すること、ハ、これにより双方の金具の協働でこれらが強度メンバーとなって取付けが強固なことによって、上記改装後の枠に風圧による曲げモーメントが作用しても、必要且つ充分に耐強性を確保できるとしている。この点からも判明するように、本件特許発明での耐強性は、イの新窓枠に補強金具が装着されていることが当然の前提とされており(イ号物件の右認定の中では、このイについては何故か触れられていない)、改装後の耐強性が鋼製補強金具に依存するものであることが明らかである。

そして、引張り時に脆弱であるアルミニウム製であることは、改装後(取付後)においても何ら変わらないのに、これが、必要且つ充分な耐強性を有しているとするのは、鋼製補強金具の補強効果が存在することを前提としないと到底辻褄が合わない。

してみれば、本件特許発明の技術的範囲の解釈及びイ号物件において、夫々上記二つの認定をしたことは矛盾し、この点において理由齟齬乃至審理不尽による理由不備の違法がある。

なお、この「鋼製補強金具」についての技術的範囲の解釈をめぐる主張(書証を含む)については、上記「ネジ締結する連結手段」と同様、原判決にほとんど取り上げられていないがこの点は後述する。

六、 技術的範囲の解釈における違法

(一) 「窓枠の」文理解釈における二義の認定

本件特許発明は、前記のとおり、新窓枠を旧窓枠に取付けるものであるが、特許請求の範囲には、「旧窓枠」(九ケ所使われている)、「新窓枠」(六ケ所使われている)と記載され、「窓枠」の語はこれらを合わせて合計一五ケ所に使われており、一方、これらを構成する「上枠」、「竪枠」、「下枠」等の記載は一切ない(明細書中の、実施例の説明で初めて用いられる)。

従って、「窓枠」の解釈について、審理の対象とされた乙第三四号証に示された客観的一義的に明瞭な「窓枠とは、上枠、竪枠、下枠よりなるもの」とする完成品としての意味であるとすべきであるから、本件特許発明は、これら四枠を備え、四枠とも引張り方式によって取付けられるものに限定された権利だということになる。

これに対して、イ号物件は、新窓枠を旧窓枠に上吊り状に吊り下げるものであり、重い硝子戸を支えるために、特に下枠部分においては独特の突張り金具ともいうべき金具を用いており(この突張り金具に対応する部材が本件特許発明には見出し得ないことは、原告及び原判決が認めるところである)、従って、イ号物件は、下枠を除いた三枠について、これを上記「挟み込み方式」(吊下げ方式)により取付けるものとしている。

本訴においては、このため、本件特許発明の「窓枠」の意味が一つの争点とされた。

原判決は、本件特許発明は四枠法を含むがこれに限定されないとし、その理由について、同一特許請求の範囲中の同一記載とされた上記合計一五ケ所に亘る「窓枠」(内一ケ所の新窓枠については、「予め四角形状に枠組みされた」と明記されている)に二義あるものとし、内一二ケ所(新窓枠、旧窓枠の双方)の「窓枠」は上記乙第三四号証に示された完成品の意味に、残りの三ケ所(新窓枠)の「窓枠」については、これと異る上枠、下枠、竪枠を「総称」する意味、即ち、これら各構成部分を直接意味するものと認定している。

そして、その根拠として、明細書中にも上記双方の用例があるとし、特に後者については、明細書の第六欄三四行目から第七欄二行目の記載部分を挙げる(この部分は、例示の如くに「等」が付されるが、他に引用部分はない)。

この引用部分中、第六欄三四行目から同三七行目には、「窓枠」の用語記載は全くないから、引用の誤りと見られる。一方、同三八行目から第七欄二行目までは、確かに、「窓枠」の記載が九ケ所に亘って用いられている。

しかし、この部分は、「本発明は…引張るものであるから、次のような利点がある」として本件特許発明の作用効果を述べる前提として、特許請求の範囲の記載を引用記載した部分である(但し、この記載は、特許請求の範囲が限定補正される前の請求範囲の記載に対応している).

本件特許請求の範囲に記載された「窓枠」の解釈に際し、明細書中の請求範囲と対応した記載部分を取り出し、その意味を認定(しかし、これらが何故各構成部分を示す意味かの判示は全くない)して、これを明細書中の唯一の根拠として、請求範囲の解釈を判示しているのは、問をもって問に答える論理である。

即ち、この論理は、殊更に明細書中の請求範囲対応部分を引用するまでもなく、特許請求の範囲の記載それ自体、その意味が明瞭であることを物語っており、この場合、そのままその技術的範囲を定めるべきであるとするのが特許法第七〇条の規定である。また、この対応の記載部分は、その後限定された補正前の請求範囲によっているものである(原判決が認定した補正の経緯に照らして明白である)から、明細書中のこの部分を引用して特許請求の範囲の記載の解釈を論ずるのは論理が逆であり、特許法第七〇条の規定にも反する。

ところで、乙第三四号証は、建築用語辞典の「窓枠」の意味に関する書証であり、これには、原判決が一五ケ所中一二ケ所について認定した四枠を備えた完成品の意味のみが示されており、その各種構成部分たる上枠、竪枠、下枠等を個別に意味することはないものとされている(なお、原判決は、乙第三四号証について、「『一般に上枠、下枠、竪枠から成り、云々』と説明されている」とするが、右「一般に」とは、日本古来の建築様式中、竪棒を柱が直接兼ねる「真壁納り」の場合を例外として扱っていることが「云々」とした部分に明瞭で、この「一般に」により完成品以外の各構成部分を指す場合があり得るとすることは文意上不可能である)。

そうすると、以上のように上記本件特許請求の範囲に記載された、一五ケ所の「窓枠」中の一二ケ所(新窓枠、旧窓枠の双方)と三ケ所(新窓枠)について異る二義を認定した点において、特許法施行規則様式一六備考八の規定に違反することになる。

そして、特許請求の範囲の記載がそれ自体明瞭であるのに、明細書中の対応記載を引用してその明細書中唯一の根拠とした点において、また、殊更に限定補正をする前の請求範囲対応部分を引用してその明細書中唯一の根拠とした点において、夫々特許法第七〇条に達反する。

更に、客観的一義的に窓枠の意味を直接示した乙第三四号証を、上記三ケ所の意味部分において排斥するにつき、その合理的理由が示されないから、この点で、理由不備の違法がある。

(二)「新窓枠の背面外周」

本件特許発明においては、新窓枠には前記弾性気密材が設けられるが、この弾性気密材は、平板状に新窓枠から張り出した「舌片」に備えられるものとされている。そして、この舌片が設けられるのは、その特許請求の範囲に「新窓枠の背面外周」である旨記載されている。

本訴においては、この「新窓枠の背面外周」の意味が上記四枠法に関して争点とされた。「外周」がそれ自体新窓枠の周囲を示すことにより、舌片及び弾性気密材がその周囲に設けられる(四枠法)ことになり、本件特許発明が四枠法に限られることになるからである。

原判決は、この点、この「背面外周」が新窓枠の「外側」から補正された事実を認定した上で、この背面外周の解釈につき、「これ(注、窓枠の解釈)との関係で素直に読めば、右特許請求の範囲の記載における『新窓枠の背面外周』の『外周』の語は内周に対する意味で用いているものと解される」と判示する。

一方、イ号物件の特定に関して、「本件発明における新上枠、新竪枠の舌片位置に関する『背面外周』の記載は、用語の適切不適切の点はともかくとして…」と述べ、新窓枠を構成する構成部分の新上枠、新竪枠(これらはいずれも直線棒状の長尺のものであり、舌片は夫々長手方向の一面側にのみ設けられる)について、「背面外周」が不適切な表現であることを認めている。

してみれば、原判決は自ら、窓枠の意味を上記のとおりの各構成部分に限って認定すれば、その「背面外周」という表現が辻褸が合わなくなることを認め、この記載が、「外側」から補正されて特許請求の範囲に加えられた事実を認定したにも拘らず、一方で「窓枠」が各構成部分を意味するとの立場に立って「素直に読めば、これが『内周』に対する意味である」という判示をするに止まる。いわば、直線棒状のものに対して一面側のみに設けられた舌片について、「背面外周」を不適切の表現とし乍ら、一方では、この舌片が設けられる「外周」の意味を、同じく「周囲」を示す用語である「内周」に対するものであるとする。これは、結局、「背面外周」を補正前の「外側」の意味に解釈していることにならざるを得ない。

右解釈については、極めて混乱し、矛盾した判示がなされているが、これは、「外周」が補正前の「外側」ではなく、それ自体周囲を示す記載であることが客観的に明白であるにも拘らず、この事実を殊更に無視しているからである。

まして、原判決は、その「四枠法によらない場合であっても…」、「四枠法に限定しなければならないことにはならない」等の記載から明らかなように、四枠法それ自体をも本件特許発明に含むとし、これを技術的範囲から除外している訳ではない(この四枠法それ自体が本件特許発明に含まれることについては当事者間にも争いはない)。

そうすると、この争いがなく、原判決も認める四枠法の場合においては、「新窓枠の背面外周」は何ら「不適切」ではないから、文字どおり、新窓枠(当然に四枠揃った完成品)の周囲の意味に解釈していることになり、原判決は、四枠法については被告の主張を認めていることにもなる。

ところで、「新窓枠の外周」を「新窓枠の内周」に対する用語だと判示したのは、これまた、問に答えるに問を以てするに止まるものである。

原判決は、この論理をもって、本件特許発明が四枠法に限られない、即ち、新窓枠中の上枠のみの一枠法から四枠法の全てを含むとした上で、イ号物件について、その下枠部分には突張り金具を用いており、従って、この点は本件特許発明とは無関係な構造とされている(この点は権利者も原判決も認めている)という明白な差異がある点を顧慮することなく、侵害の成立を認めている。

してみれば、本件特許発明の「新窓枠の背面外周」の解釈につき、客観的に周囲を示すことが明らかな「外周」の用語が四枠法以外には不適切であることを認め乍ら、これとの整合性ある理由を示さないまま、本件特許発明は四枠法を含むがこれに限られないとした点において、論理に一貫性を欠き矛盾するとともに、審理不尽による理由不備の違法がある。そして「外周」の解釈を単に同じく周囲を示す「内周」に対する意味であるとしたことは、それ自体「背面外周」の解釈が示されたとはいえない点において、また、これにより、四枠法に限らないとした判示中、一~三枠法の場合について、直線棒状の上枠等との関係についての整合性ある理由が示されていないことになる点において、夫々審理不尽による理由不備の違法がある。

また、「外周」の解釈が客観的には、周囲を示すことを認め乍ら(直接棒状の上枠等に不適切とした点)、結果、同時に認定した補正前の「外側」と変らないものとした(一~三枠法を認めるとこうなる)点において、審査過程の補正事実を無視しており、この点特許法第七〇条の規定に違反する違法がある。

七、主張を判快中に取り上げず、判断を遺脱した審理不尽による理由不備

(一)本件特許発明の「補強」の意味

本件特許発明は前記のとおり、取付金具において「鋼製補強金具」を用いるものであり、一方、イ号物件は、「鋼製摺動金具」を用いるものである。

この摺動金具は、原判決が被告主張として示すように新上枠、新竪枠に一m/m程度の余裕を残して嵌っているに過ぎず、いわば指先で一寸押せば簡単に移動する程度である(この点は原告も認めている)。新窓枠が取付け固定されたときは、コーキング材がその周囲に回される(この点は本件特許発明とは全く無関係である)ことによっても固定されるから、この余裕が障害となることはないが、このような余裕のある状態で新上枠等に嵌っているに止まる摺動金具はそれ自体、新窓枠を「補強」し得るものではないことが明らかである。

新窓枠を補強するには、これに容易に動かない位に窓枠にしっかり嵌っていることが常識的に見ても当然に必要であるし、これが本件特許発明における「補強」を意味するものであるから、イ号物件の摺動金具と本件特許発明の補強金具とは別のものと判断されなければならない。

本訴で争点の一つとされたのは、前記のとおり、本件特許発明の「補強」の意味であり、その技術的範囲の解釈である。

この点について、〈1〉本件特許明細書の実施例は全て、補強金具が密に嵌っているもののみが示されていること、〈2〉その作用効果は、この補強がなされた結果の「改装後の耐強性」を記載していること、〈3〉乙第七六号証で、この補強金具がハンマー等の工具を使わないと動かし得ないこと、即ち補強金具が極めて密に嵌っていることを権利者自身認めかつ主張した事実のあること等の主張を行った。

しかし、これらについては、原判決中に何ら取り上げられておらず、従って「補強」の意味について、被告の主張を排斥する理由は全く示されていない。

僅かに、原判決は、前記のとおり、単に一脆弱なアルミニウム製新窓枠を引張り時に補強する」として、その一応の判断を示すに止まる。

しかし、この判断を採るには、少くともこれと対立した被告の主張を審理し、これが排斥されるものとされる理由が示されなければならない筈である。

原判決にはこの理由が示されていないから、前記のとおりに作用効果の認定(改装後の補強)とこの認定(引張り時の補強)とが矛盾して整合性を欠く結果を招いており、この点が以上のように争点とされていたにも拘らず、これに一顧だに与えることなく、その主張は看過され、排斥されている。

また、乙第七六号証は、権利者自らがこの補強金具と新窓枠の関係について、これが改装後の補強であることを示唆する事実を別の事件(本件特許の分割出願についての特許異議申立に対する答弁書)で主張したものである。

これら原審での本件特許発明の「補強」の意味に関する被告主張が原判決中に全く見当らないのは、原判決がこれを看過していることを示しているからであり、そして、これに対する判断が示されることなく主張が排斥された原因とされているから、この点審理不尽による理由不備の違法がある。

また、権利者自らがその主張を記載した乙第七六号証は実質的に被告の主張と合うから、これを排斥するには、その合理的理由が示されるべきであり、これが示されない点で同じく理由不備の違法がある。

(二)「ねじ締結する連結手段」

本件特許発明の前記「ねじ締結する連結手段」という抽象的記載については、その技術的範囲の解釈が争点とされたことは既に述べたとおりである。

この争点について被告は、本件特許発明は、ボルトを回転操作するものである(この点を原判決は認定している)ものに限られ、およそナットを用いてこれを回転操作するものは含まれない旨主張した。

しかし、この点について原判決は被告の主張を取り上げることなく、わずかに、これを排斥する理由を、特許請求の範囲に限定がないとする以上には示さない。

しかし、被告が主張したのは、原判決が認め、原告が主張するところ、即ち、新旧上枠、竪枠の間が狭少であるため作業を行い難いから、挟み込み方式を行っていない筈だとする主張乃至認定と、ナットを用いる技術を本件特許発明に含むとの判断が、明確に矛盾するというにあり、そのために、乙第七一号証を提出している。

原判決が認定するように本件特許発明は、ボルトを回転操作してねじ締結することを予定しているが、これは、ボルトの頭を室内側(実施例図面に示される室内側のカバーは作業後に設けるから、このボルトは室内側に露出していることになる)にして、ドライバー等でこれを回転操作して新窓枠を引張ることとされているからである。

即ち、長いボルトの全体を回転すれば、その先端を新窓枠の補強金具の雌ねじに入れ込むことがで者るから、新旧窓枠の狭小の空間でわざわざ作業したりしなくて済むというにある。

しかし、ナットを用いる方法であれば、この一般に八角形の小さな部品を室内側で回転操作するに際し、そもそもこれをねじ締めする対象である長く細いボルトを何らかの方法で支えて、その先端を室内側に突出させておくことが必要である。本件明細書、図面のどこにも、ナットを用いることはもとまり、ナットを用いる上でボルトをどう支えて室内側に突出させるかを想定した方法は全く示されていないが、仮に、これを最も単純に手作業で行おうとすれば、新旧窓枠間の空間に少くとも二本の指を差し入れてこれを抓んだ上ボルトを支えて室内側に突出させる以外には方法がない。

原告は、乙第七一号証でこの空間が極めて狭く、ここでの作業は困難であることを強調した特許出願(何故かイ号物件の取付金具に極めて似たものを実施例としている)を行い、また、この点を原審で繰り返し述べて、挟み込み方式における菊ナットの操作(この操作は人差指一本で行うことについては争いがなく、原判決も認めている)が極めて困難だと主張しており、また、原判決も、これを認めて、挟み込み方式(吊下げ方式)を「ピース金具と同じ幅の菊ナットを室内側から指を入れて当接させなければならず作業が煩雑であり」と認定している。

このように、指一本入れて菊ナットを操作することすら煩雑だとする程の狭い空間に一体どのように二本の指を入れてボルトを支えた上、ナットを取付けられるようにその先端を室内側に突出させ得るのか、この点が問題とされた。

本件特許明細書、図面のどこにも、ナットを用いることは書かれていないし、ましてや、手作業とした場合ですらナットを用いることが、不可能に近いという問題点を解決する技術は全く開示されておらず、原判決が認定したように単にボルトを回転操作することによる技術のみが予定され開示されているに止まる。

即ち、被告の主張は、このような原告、原判決が前提とした狭小空間で、これを独自の取付金具で解決したのがイ号物件であり、それ故にこれが乙第四号証として特許されているというにあり、また、本件特許に全く予定されていないナットを用いる技術を含ましめることは、格段の理由もなく異質の未開示技術を本件特許に取り込むという結論を出しているというにある。

原判決は、特許請求の範囲に限定がないというが、これは、即ち「ネジ締結する連結手段」という抽象的記載それ自体をもってその根拠とする。しかし、被告はこの抽象的記載の解釈について争い、この点の主張を行っているのである。

してみれば、原判決が被告の主張を看過したこと、そして、これに対する判断が示されることなく、この主張が排斥されていることが明らかで、この点審理不尽による理由不備の違法があり、また、乙第七一号証を排斥するにつきその合理的理由を示さない点において、併せて審理不尽による理由不備の違法がある。

八、補正前の特許請求の範囲により技術的範囲の解釈をした特許法第七〇条の違反

原判決が認めているように、本件特許発明は四回に亘り、その特許発明の範囲が補正され、四回目の補正は特許法第六四条による出願公告後の補正である。

従って、本件公報(甲第一号証)の特許請求の範囲の記載は、甲第二号証(手続補正書)により訂正され、そのような補正前の請求範囲は存在していないことになる。

しかるに、原判決は前記新旧「窓枠」、及び「背面外周」の解釈につき、「特許請求の範囲の記載における本件公報第一欄二七行目の新窓枠から同三六行目の新窓枠までの窓枠の語は…と解される」とし、また、これに続き「右特許請求の範囲の記載における『新窓枠の背面外周』の『外周』の語は…と解される」として、特許請求の範囲の記載を甲第二号証によらず、補正前の甲第一号証たる本件公報に従って引用している。

この点からも、原判決が極めて粗雑な審理に基づいて行われたことを示しているが、右甲第一号証による引用は、技術的範囲の解釈について特許請求の範囲の記載によることとした特許法第七〇条の規定に違反している。

九、まとめ

原審決は、事実審の最終審である控訴審の手続きにおいて、被告の主張についての審理が尽されていないことを憂い、続行を求める被告の希望に対して「裁判所は分っていますから」として口頭弁論を終結し、判決期日が二回に亘り延期された上、終結後一〇ケ月を経て原判決を言い渡した。

しかし、結果から判明するところによれば、被告の憂いは現実のものであることが判明した。即ち、原判決は、イ号物件の旧窓枠中の、僅か二m/mしか異らない同一取付金具、同一新窓枠のものについて、侵害成立とした引張り方式と争点ときれた非侵害の挟み込み方式を同時に認定し、非侵害の場合をも侵害とする結果を招き、イ号物件の新窓枠が弾性を有し圧縮余裕を有するガスケットにより取付け固定されているものとそれ自体矛盾した認定を行うとともに挟み込み方式(吊下げ方式)を排斥し、引張り方式を認定したガスケットにつき、イ号物件を取調べ乍ら、これと別異のものを独自に設定想定して、これによって審理を行い、気密材をこれと無関係の液体の流れ防止用のものとし、ねじ穴である雌ねじと独立部品のナットとを同一視し、本件発明とイ号物件の回転操作の対象に差異を認め乍ら、その構成要件該当性の認定に理由を示さず、本件発明の「補強」の解釈につき、取付前後を問わず脆弱なアルミニウムに関し、その作用効果を一方で認定し乍ら、この作用効果との関係についての審理を看過し、同一特許請求の範囲中の同一記載である「窓枠」について二義を認め、「背面外周」が四枠法以外に不適切なることを認めるのに、これとの関係を示さずに技術的範囲を定め、「補強」の意味、「ネジ締結する連結手段」についての技術的範囲の解釈についての被告の主張を看過し、ひいては、訂正前の特許請求の範囲の記載を引いてその解釈を行う等、いわば、極めて粗雑ともいうべき審理を行っている。

そして、これらは、前述のように、夫々、審理不尽による理由不備、矛盾による理由齟齬、書証の排斥についての理由不備、法令の違背に亘る各上告理由となるに至っている。

特許権侵害として差止請求を容認した原判決は被告らにとっては重大であるが、その原判決はこれ程多くの上告理由を含んでなされている。殊に、イ号物件のガスケットがいつの間にか裁判所が独自に想定した、イ号物件におけるものと全く無関係のものに置き換えられて、その結果被告の主張が悉く排斥されている点は、将来に再審理由を残すことになる。

従って、本訴につき、原判決の違法事由を御確認頂くことにより、速やかに上告の趣旨記載の判決を頂きたい。

以上

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